【吉配信】~森とヒトと

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Friday, May 12, 2006

【木材は為替である】 

Subject: 【木材は為替である】 
To: kaz@xxxxintlcan.com
M

カナダドル、ニュージーランドドルが暴騰して、
木材輸出の競争力が無くなります。円高日本と同じ。

ロシア、中国、東欧が、強くなります。




木材流通の的を得た論文です。

2002年木材学会(九州大学)にて講演。



■「木材産業から見た日本林業」  (株)ウッドワン  中本 利夫氏

1) 再生産可能な森林資源

 産業革命以来、自動車や飛行機の利用など、われわれの生活の急速な進歩に伴い、
鉄・銅・アルミ・ニッケル等の資源が消費されてきましたが、これらは一体、あと幾
世紀もつのでしょう。人類がこの世に誕生して約400万年になりますが、このよう
な無駄遣いをしていてよいのでしょうか。しかもこれらは掘り出しただけでは何の役
にも立たず、石油に代表される化石燃料によって製錬されて初めて、鉄の棒やアルミ
の板となって役に立つのです。その石油が、あと40年、50年と言われています。さ
らにこの化石燃料は、燃焼させる際に膨大な二酸化炭素を放出し、地球環境問題の一
因ともなっているのです。

 そういう意味において森林資源は、工業資源のなかで唯一、再生産可能な資源であ
るということを考えてみる必要があります。森林資源の地球上の蓄積量は約3500億
m3とされていますが、年間の使用量が約35、6億m3なので、他の資源なみに計算
すると100年分になります。しかし森林は成長するのです。1%でも35億m3なので、
地球上で森林が平均1%成長すれば、現在の消費量は、ほぼまかなえるという数字に
なります。

 なお戦後わが国で植林されたスギやヒノキは、スギで3%台、ヒノキで2%台と推
定できます。ニュージーランドのラジアータパインに至っては7-8%も成長してい
ます。


2) 森林資源の抱える問題

 しかし、地球上で1%以上の成長ができているかといえば、現在、環境問題で大き
く取り上げられている、東南アジアの手付かずの熱帯雨林、あるいはシベリアの森林
は、極層林といえば響きはいいですが、裏返せば成熟林、悪く言えば老齢林です。面
積当たりの成長をすでに止めた、限界の状態になっているのです。
 ここは択伐林方式か、皆伐・再植林方式、いわゆる法正林施業で伐採し、次世代の
森林の成長を促していくということを、もっと真剣に考えていかなればなりません。
 しかし一方で、東南アジアにおいてもシベリアにおいても過伐されてきたのも事実
です。今や地球規模で、再生産可能な森林経営を真剣に検討すべき時だと思います。


3) 日本の林業の実態

 さて、戦後われわれが植林した日本の林業は、今どうなっているのでしょうか。
 国土面積の約67%にあたる、2500万haの森林は、戦中戦後、オイルの代わりと
して使われ、木炭自動車まで走り、戦後の経済復興とともに多くの住宅用建材、ある
いは製紙用パルプ材として瞬く間に過伐されました。その後風水害等の問題もあり、
大規模な植林事業が開始され、現在では森林全体の40%にあたる、1000万haを超
えた段階になりました。林野庁の計画では1300万haとのことでしたが、その後ど
うなったのでしょうか。

 成長が早いのはスギで、早くに植林されたものはすでに50年生となり、在来では
すでに伐期に達しているのですが、なかなか伐れません。不採算林になってしまった
のです。

 昨年末、久しぶりに北海道の函館に行きました。道南にも戦後、スギが植林され、
製材品は東京送りだそうですが、原木価格が立方10000円をわっているのです。南
九州の宮崎あたりもその程度の相場で、広島・岡山あたりでは14000-15000 円だ
そうです。

 私事ですが、別会社の中本造林が、平成元年に林業経営というタイトルで、農林水
産大臣賞とともに、最優秀賞として天皇杯を頂戴いたしました。皇居に参内して両陛
下の拝謁を仰せつかり、7,8分のご下問を受けることとなりました。そこで私は長
伐期論を展開していることをご紹介申し上げ、「100年も200年も木を伐らないとな
ると、どのように林業を経営されるのか」というご質問に「高密路網を作って適当な
間伐をし、その収入で林業経営がなんとか成り立っています」と、お答えしたわけで
す。

 当時は、まだ間伐材が収入を賄える値段でしたが、あれから15年たった今日、中
目材が市場で14000-15000円、小径木は10000円にも満たず、伐採搬出コストさ
え難しい状況に入ってしまいました。

 これが、日本列島を取り巻く、伐期を迎えたスギの山なのです。皆伐してしまえば
ロギングコストは安くつきますが、そこには再び植林しなければなりません。

 以前、業界紙にある山林主の投書が載っていました。代々持っている山があり、父
親が植林し、青年時代には下刈りやら手入れに連れて行かれ、50年生になったら伐
ってもよいとのことで、やがてその時期が来たので森林組合に頼んで流木を売却し、
植林もしてもらった。しかし2年後には、山林の売却代金が皆、無くなってしまっ
た。50年生の木を伐って、2年生の木になってしまったと。3年目からは金がないの
にどう手入れするのか、やり方が悪かったのだろうか、諸先輩のご意見を承りたい
と。笑えない事実です。

 こうして、伐ろうにも伐れない状況に追い込まれているのが日本の林業なのです。
まして昨年末に行った道南では、戦中戦後に伐った雑木林のうち、ブナは150年、
カバでも100年はおきたいということでしたが、気候からみて、伐期までにまだま
だ時間を要するこの林業を、いかにしてつないでいくのか、考えさせられる問題で
す。


4) 国際競争力を失った日本の林業

 さて、日本のスギはなぜ国際競争力に負けるようになったのでしょうか。これは私
の持論のようになってきましたが、8割以上、外為で説明できるのです。

 米ドル360円時代に米材の輸入が始まりましたが、1960年代には、本格的に米材
が日本へ輸入されるようになりました。その競争に押されて日本のスギもどんどん販
売価格が下がりましたが、当時はまだ伐る時期でなく、「外材輸入は日本の木造住宅
を維持する意味で千載一遇のチャンス」とも言われました。外材がなければコンクリ
ートや鉄骨に変わっていただろうにという意味で、なるほどと感心したものです。

 しかし今、日本のスギがようやく伐期を迎えたものの、外材に押されて動きが取れ
なくなり、米材もすでに国際競争力に押され、力不足になっています。

 今、我が国で最も国際競争力が強いのは、フィンランドに代表される北欧材です。
ここで製材され、ドーバー海峡、地中海を渡り、インド洋、東シナ海を通って日本に
到着したものが、中国山脈で伐採され、40キロ足らずの広島まで運ばれるものより
もコスト競争力が強い、それが現実なのです。そして、その最大の理由が外為なので
す。

 一例をあげると、米ドル360円時代に、私共が進出しているニュージーランドは、
400円しました。戦後、一人当たりの国民所得が一番高かったのは、当時ニュージー
ランドでした。しかし、本国にあたるイギリスのEC加盟とともに通貨は弱くなり、
現在約60円。一昨年の9月末には、44円までいきました。かつての400円からみ
れば9分の1です。60円としても、7分の1近い下落です。米ドルは、360円が現
在120円。3分の1まで下がりましたが、ニュージーランドの7分の1には勝てま
せん。


5)国際競争力に強い北欧材

 今、フィンランドを始め、北欧材にそこまで力があるのはなぜなのでしょうか。

 最大の理由として、隣の旧ソ連のルーブルの暴落があげられます。かつて米ドルと
肩を並べていた時代から、ベルリンの壁が壊れて以来暴落の一途を辿り、当時からみ
ると100分の1を割り込むような状況で、国際通貨からみるとタダ同然になってし
まいました。こうしてあの膨大な国境から、どんどん木材が輸出されているのです。

 一昨年対昨年の輸出量をみても、35%も増加しています。フィンランドはこの原
木を製材製品にして日本へ送り、競争力を強めているのです。


6)ニュージーランドにみる外為の影響

 ニュージーランドで、私ども三箇所の山林と工場のロギングコストは、平均で約
30ドル、立方当り1800円。一方、中国山脈で木を伐り、40キロほどの廿日市市の
工場に戻ると、10000円を超えてしまいます。便利の悪いところでは12000円にも
なります。 このばかげた現実も、外為で説明できるのです。

 NZドルが7分の1近くですが、1800円を7倍すれば12600円。NZドルが昔の
為替に戻れば、まことに対等なのです。

 日本が自動車工業やIT産業など、貿易によって外貨を稼ぎ、経常収支が大幅黒字
になってすでに十数年。今年もまた、貿易収支は前年対比で大幅に伸びると、最近の
記事では伝えられていますが、これでは円は強くならざるを得ません。

 生産性の上がらない農業・林業が、この為替についていけるはずがありません。大
幅な貿易黒字という体質が変わり、日本が輸入国にでもなれば、円安となって解決す
るでしょうが、当分これは望めそうにありません。


7)長伐期林業への転換

 伐ろうにも伐れなくなった日本の植林地。しかし幸いなことに、木は伐らなければ
成長するのです。そこで、長伐期林業へ切り替えていくことが求められてくると思い
ます。

 わたしは早くから、長伐期林業への転換を始めています。吉野には、民有林で300
年を超える森林をお持ちの林業家もおられますが、私は当面100年林業を目指して
います。100年たったときには、孫が200年生にすると言えばいいのです。

 ここで、長伐期にするためには次の条件が必要です。まず、長伐期に耐えうる優良
品種であることです。わたしは、中国山脈に昔からある八郎スギと呼ばれる天然スギ
を母樹として、挿木苗を養成してきました。また、長伐期のためには弱度の間伐を繰
り返していきますので、高密路網が必要になります。

 しかし、これらに切り替えるための最大の難点は日本の税制で、三代相続したら、
財産が無くなってしまうのです。これでは200年、300年の林業は成り立ちません。

 そこでひとつの提案ですが、例えば100年生を超えるような木は、伐ったときに
は税金をとるが、伐らなければ無税扱いとすれば、自分の財産として、伐らずに置く
ようになります。税法で長伐期を誘導するのです。

 いま、法隆寺の五重塔は、建立されて1300年が過ぎ、樹齢は1000年を超えてい
ると言われていますが、万一ここが火災に遭えば、建て替えるヒノキが日本のどこに
あるのでしょう。調べたことはないですが、とてもあるとは思えません。これほどま
でに近代化された国家にあって、神社仏閣を建立できる木がないとは、なんとも残念
なことです。

 では、国が経営すればよいかというと、ご承知のように、国有林が大幅赤字を一般
財源で賄わざるを得なかったように、国が100年200年林業を目指せばどんなに高
いコストになるかは実証済みです。

 ここは是非、民間で出来るようにすれば、税金で取り上げることさえなければ誘導
する方法はあるのです。伐るまでは税金を取らない、待ってやる。これだけで、かな
りのものが出るのです。林業家に100年200年の山を作らすことは可能なのです。
100年を越したような森林というのは民族の財産であり、誰が守りをしているかだ
けのこと、そんな考え方で進めていくべきでしょう。



------- End of Forwarded Message

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田中 吉成
tanaka2434@mx1.nice.co.jp
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